Sanskrit Vol.2

(参考文献:白水社「ニューエクスプレスプラス サンスクリット語」)

 

◆南アジアに君臨する古典語

 サンスクリット語は日本では古来「梵語」と呼ばれ、仏教経典の原語として知られていますが、ヒンドゥー文化つまり伝統的インド文化の中核です。重要なヒンドゥー教聖典、詩、物語、戯曲等あらゆる種類の文学作品、インド独自の伝統諸学問の典籍のほとんどがこの言語で著わされています。

 同時に、サンスクリット語はインドを中心とする南アジア最大の古典語でもあります。この言語が南アジア諸言語の中で占める地位は、西洋諸言語におけるラテン語、あるいは東アジア諸言語における古典中国語のそれに相当し、ヒンディー語、ベンガル語、タミル語、ネパール語、シンハラ語など、南アジアのあらゆる言語の語彙体系や文化がその影響を大きく受けています。

 

◆サンスクリット語とは何か

 「サンスクリット」と言う名称は「洗練された言語」を意味します。「洗練された」とは、文法に則って誤りを除去した「正しい」言葉と言うことです。ここで「文法」とは一般的にはパーニニ文法学の教える文法を指します。パーニニ文法学とは紀元前5世紀頃の文法学者パーニニが、当時の知識人が日常話していた言語を中心にその文法を記述した文典「八巻の書」、それを基礎として前2世紀頃に完成されたインドの伝統学問です。

 その後、時を経て、パーニニ文法を規範として学習運用されるようになった言語がサンスクリット語で、それがいつしか古来言語環境の複雑なインド地域において普遍性を持つ唯一の言語となり、二千年もの長きにわたり知識人達の共通語の役割を果たすことになったのです。

 

◆サンスクリット語の現在

 サンスクリット語は一般に「古代語」「死語」と見なされているようですが、それは誤りです。今もサンスクリット語は使われ続けているからです。もちろん状況は往時と異なり、インドの町中でサンスクリット語を話しても通じることはまずありません。しかし、大学等でサンスクリット語を教える教師や専攻する学生、市井の愛好家達の中には、この言語で日常的に話したり著作する人が無数にいますし、雑誌や新聞、ニュース放送などもあります。そこで使われるサンスクリット語は、パーニニ文法学の規範は遵守しつつも、語彙や言い回しなどに各々の趣向や時代を映して変化し続ける、まさに今を生きる言語に他なりません。

 

◆サンスクリット語の学び方

 「難しい」とよく言われるサンスクリット語ですが、それは半分本当です。サンスクリット語はドイツ語やラテン語をもっと複雑にしたタイプの言語で語形変化が非常に多く、まずそれを覚えないと文字通り話になりません。これは確かに大変ですが、それさえ済ませてしまえば後は意外と簡単で、理屈の通じない慣用語法の類が非常に少ない点などは、むしろ英語などよりも易しいと思われます。